【長編】雨とチョコレート

寺はこの家の中で唯一、俺の気持ちを知ってる人だ。


「・・・お嬢となんかあったんですか?」


お嬢っていうのは、しののこと。

小学生のころからそう呼んでる。

ちなみに俺は若って呼ばれることのほうが多いんだけど、寺だけは俺のことを坊って呼ぶ。

理由は知らないけど。


俺が元気なら「お、鋭いねぇ」とかバカみたいに笑ってやったんだろうけど、そんな気力もなく。

ただだらしなくめそめそするだけだった。
(泣いてはいないぞ!念のため!!)


「一個ずつ話聞きますよ。話したいなら、でいいですけど」


寺は相変わらず面倒見がいい。

だから兄貴って慕うんだけどさ・・・。

でも、今日のことを思い出すだけで、胸がきゅうって苦しくなった。



「・・・・・しのが・・・一緒に帰りたくないって・・・・」


「え?」



しのの顔が浮かんだ。

俺の前でまゆげ下がってるぞーって笑ったあの顔が。

9年・・・ずっとみてきたあの笑顔が・・・。


思い出しただけなのにこんな気持ちになるなんて。

そうとう、重症だ、俺・・・・。

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