約束期限
プロローグ
 ―彼女は、覚えてくれているだろうか?
  あの日、僕とした約束を。―




「よろしくお願いします」


留学発表の記者会見は、ソウルのホテルでおこなわれた。


細身のスーツにネクタイと正装をしたKが会場に入るなり、カメラのフラッシュが襲いかかってきた。


撮影の時とは、明らかに違うカメラの量。今までしてきた芸能活動の中で、一番多いカメラの数と言うのは一目瞭然だった。


「よろしくお願いします」挨拶をし、顔を上げると記者会見がスタートした。


Kの後ろには、『K留学発表記者会見』と書かれたプレートがある。


ドラマや映画の制作発表ではない。


ここに集まっている記者全てが、Kの為に集まっている。それを実感した時、喜びが波のようにこみ上げてきた。


だけど、Kがこの喜びを一番に伝えたい人は、近くには居ない。


その人は遠い場所、日本に居た。



「韓国で今、最も注目されている若手俳優ですが、留学をしようと思ったきっかけは?」


「これと言った大きなきっかけはありません。昔、日本に住んでいたので、いつか戻りたいと、ずっと思ってました。」


「最も注目されている時に行く必要はないと言う声もありますが?」


「そうですね、でも、今が僕のタイミングなので。」


 ―キミは、覚えてくれているだろうか?
  十五年前にした、小さくて、
  だけど、とても大きな約束を。―

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