約束期限
婚姻
「景!」


ヨンスがパッと目を開けると、暗闇が広がっていた。


前髪を後ろに流し、枕もとの時計を見ると緑色光るデジタル時計が、3:42を示していた。


眠りについて、まだ一時間半も経っていなかった。


目の前に居た彼女が、自分の名前を呼んで、ヨンスが頬に触れようとした所で目は覚めた。


意地悪な夢だった。


長年の夢を目前にして、興奮しているのだろう。


今夜は、眠れそうになかった。


首からさげられたペンダント。


それを外し飾りの部分を開くと、少し色褪せた少女の写真が現れた。


ヨンスは写真の中の少女に笑いかけてから、ギュッとペンダントを握り締める。


十五年前と今では、顔つきは変わったし、背も40センチ以上高くなった。


筋肉もついたし…


十五年も経ったのだ。当時のままな場所を探すほうが難しい。


窓に映った自分の姿。もう、昔の面影はなかった。





翌朝、仁川空港には沢山の報道陣やファンが詰め掛けていた。


報道陣のカメラには笑顔を向け、ファンにサインを書いたり、握手をしたり。


ヨンスは、ガードマンに守られながら搭乗口へと入ったが、想像していた以上の時間を要した。


「へい、ヨンス。大丈夫?」


「あぁ」


「ヨンス、えぇ…昨日、よく眠れますか?」


「昨日、よく眠れましたか?だろ。あぁ、眠れたよ。」


「そうでした!昨日、よく眠れましたかですね。そうでした、そうでした。」


マネージャーのジフンは嬉しそうに笑い、ヨンスが訂正した言葉を何度か繰り返した。


一年前に事務所の社長に留学を申し出た。


そして、半年前に正式な返事が出て、一ヶ月前に世間に発表された。


日本に一緒に行くことになったマネージャーのジフンが、日本語を学び始めたのも半年前。


書くことと読むことは、まだ充分に出来ないものの、彼の成長は早かった。
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