好きな人は、
昨日は彼に驚かされたから仕返ししちゃおうかな、なんて色々想像しながら職員室を出たあたしは、まだいつもほど暗くはなっていない廊下を走る。
自分でも気味悪いくらい気分が良くて、自然と口角が上がっていた。
でもいつもの渡り廊下に差し掛かったところで、あることに気付く。
「あれ、いない…」
野球部が練習しているはずのグラウンド。
なのに、人が一人もいない。
慌てて時計を確認すると、まだ7時35分。
…今日も早く終わったのかな。
なんだ待てないじゃんと思いつつも、彼の着替えがまだ終わっていませんように、とか、贅沢かもしれないけど昨日みたいに校門の前で待っててくれないかな、とか期待を込めながら廊下をバタバタ。
急いで靴を履き替えて昇降口を出ると、運良く校門の手前で目的の背中を発見した。
「潤くー……」
「潤くーん」
潤くんを呼ぼうとしたあたしの声を遮ったのは、甘く高い声。
声の主は、ふわふわした栗色の髪を揺らして潤くんに駆け寄る。
え、あたし?
あたしは近くにあった茂みに、ついつい反射的に隠れちゃいましたけど。
そして顔の上の部分だけをベタに出して、二人の姿を観察する。