好きな人は、
思わず零れた、一切予定に無かった言葉に現実味なんて微塵もなく、お婆ちゃんの「どっこいしょ。」みたいにボソッと呟いたのが意外に部屋に響いてびっくりした。
でもそれよりも、思った以上に冷静な自分にびっくりした。
「………は…?」
奏は、怪訝そうな顔であたしを見る。
お前何いってんの、みたいな顔で。
言われるのをずっと恐れていた言葉。
それを言ったのは、あたし。
限界だ。
これ以上、あたしだけ寂しい思いして、あたしだけ好きが膨らんで、あたしだけあたしだけ、あたしだけ………
そんなの、もうたくさんだ。
「帰って。」
下を向いたまま、玄関を指差す。
奏は何も言わない。
そして、あたしが淹れた冷めたミルクティーを一気に飲み干した。
「ごちそうさま。」
それだけ言って、立ち上がる。
ソファに置かれた鞄を取り、彼の玄関へ向かう足音だけが、耳に染み込んだ。
パタン。
自分自身が迎えた結末は、虚しさだけを残した。