部活探偵のツンデレ事件簿-タイム・トリッパー殺人事件-

・究極のトリック

それを聞いて亜矢子と琢磨が顔を見合わせる。直子が向かった方向は、合流する部分がない玄関からの一本道だった筈で出合わない筈は無い。

「い…いえ、なんでも…」

「ところで前沢さんはどうしたんですか?」

琢磨がちょっと警戒心を見せながら前沢に尋ねる。

前沢は琢磨の警戒心に気がついて両手を少し広げ、肩をすくめて首をかしげながら、ちょっと溜息交じりにこう言った。

「なに、捜査の基本と言う奴でね。気になった事は現場を見て判断するってね」

「気になった事?」

「ああ、くだらない事とは思うんだが…探せば出てくと思うんだが、犯人の足跡がちょっとね…」

「足跡?」

「犯人の足跡は出て行った形跡も、入ってきた形跡も無いんだよ。部屋の中をうろうろしてるだけで忽然と消えている。まるで瞬間移動でもしたみたいにね」

「瞬間移動?」

琢磨の表情が妙に真面目な物になってしまったのに気がついて前沢は表情を崩して、すこし冗談交じりの表情ででこう言った。

「――物の例えだよ。よく照合すれば分る筈だ。もう直ぐ鑑識が来るから、君達悪いが外してくれるかな。それと、ここに私が入れた事も黙っててくれたまえ」
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