九我刑事の事件ノート【殺意のホテル】



「腕を『引っ掻いた』のなら、引っ掻いた側の爪には当然ある物が残ります。」



十和田が答えた。


「皮膚痕」


「そう」



五家宝の顔がみるみるうちに青ざめていく。

満足そうに彼方は頷いた。



「双葉さんが握っていたのは物ではなく、犯人の皮膚です。

引っ掻いた爪に残る犯人の痕跡を苦し紛れに双葉さんは守ったのでしょう。


……しかし、あなたはそれに気付いてしまった。


気付いた頃にはすでに死体は固まりはじめ、爪から痕跡を消すことは不可能と判断。


五家宝さんもまた、苦し紛れに水で死体をふやかそうとしたのでしょう。」



「………」



「本来は、辻さんが最初に推理した通り、双葉さんが一条氏を殺害して自殺したという筋書だった。


けれどプールに水を入れてしまうというアクシデントによりそれは断念。

一条氏の部屋も『造られた密室』を造り上げて同一犯を連想させた。」



「…………だから!!!!」


五家宝は彼方に詰め寄った。

その形相たるや、美人がすっかり崩れて般若のようにも見える。



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