月夜の天使
なおも、強い眼差しで加奈を見つめる十夜。

「十夜、お願い、降ろして」

「嫌だ。加奈」

あまりの十夜の真剣な表情に、加奈は目を合わせることができなくて瞳をそらした。

「まーた、私をからかって。降ろさないとひっぱたくよ」

この場を逃れようとわざとふざけるようなしぐさで腕を振り上げた。

「おーこわ!加奈は腕っ節が強そうだ。わかった。降ろすよ」

そう言って加奈を降ろした瞬間、十夜は一瞬の隙をつくと加奈の額にキスをした。

「!?」

「十夜!なにすんのよ!」

「助けてやったんだぜ。お礼くらい言うだろ、フツー」

そういえば、まだお礼も言ってなかった…。

「ありがと。でもキスで借りはなし!」

「ハハ。わかった。それで手を打つよ」

ドキ・・・。

十夜の笑った顔って、意外に天使だ・・・。

十夜の楽しそうな笑顔は初めて見た気がした。

「加奈、送ってくよ」

加奈は帰り道、川につき落とされたような気がしたこと、頭の中に不気味な声が聞こえたこと、全てを十夜に話した。

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