君がいたから

鞄から楽譜を取り出し
それを譜面台に置く

「青くん、これを弾いてみてくれないか？」
「俺、ピアノなんて弾けません」

嘘、本当は弾ける
でも、最近はずっと弾いていないんだ
両親が死んだときから

「嘘つくな」
「何を根拠にそんなこと」

先輩はため息をついて
鞄の中から一冊の雑誌を取り出す
何度も読み返され
よれよれになった雑誌

･･･あれは･･･

「これ、お前だよな？」
「･･･っ」

一度その本を見て
すぐに視線を下に下ろした

「『10歳のピアニスト　まるで神の子』」
「･･････」

なんで、そんなものを持ってるんだすか先輩･･･
誰も知らないはずなのに
なのに、なんで･･･

「な、んで･･･それを･･･」
「俺、ピアニストを目指してたんだ。小さい頃からずっとな」

俺の言葉に、先輩は笑いながら応えた

「俺は、ずっとお前に憧れてた
　小さい頃に、父にピアノのコンサートに連れてってもらって
　『なんで、同じ曲なのに、こんなに違うんだろう？』って思った
　だから･･･」
「だから？」

俺がそう言葉を返すと
先輩は譜面台に立ててあった楽譜を手に取り
それを俺に手渡した