君がいたから
「別に言いたくなかったら言わなくていいからな」
「はい、大丈夫です。話します」

先輩の言葉に
俺はお茶をひと口飲んでから言葉を返した

「あれは・・・
 俺がまだ10歳の時でした
 父さんと俺のピアノのコンサートの帰り道の出来事です」

開いていた窓から風が吹き込み
自分達の髪とカーテンを揺らした

「俺と母、そして父が乗っている車と
 トラックが、正面衝突したんです
 その時、父とは母俺を守って、俺だけを外に出しました」

あの日、
何故両親が俺だけ連れて逝ってくれなかったのか
どうして独りにしたのか
答えなんて、見つからなかった

それは、今も同じ



俺はあの日から何にも変わっちゃいない


「病院を退院して、まずどうしてもピアノが弾きたくなって
 でも、無理でした。あの日も同じ様に倒れて、病院に逆戻り」

二人にそういって
無理に笑顔を作った


「・・・ごめん、なさい」

上総が発した言葉はたった一言
別に、同情して欲しいわけじゃない
そんな顔をして欲しいんじゃない

俺、上総には笑って欲しい
 
ただ、それだけなんだよ
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