君がいたから

満足するはずだった
言ってしまえばすっきりすると思った

でも、
そのあとの上総の顔を見て
やっぱりやめておけばよかった
と、後悔してしまった

「返事はいらない
 上総を困らせないわけじゃないから」
「ごめんなさい」

俺の言葉に彼女は
顔を伏せてそう発した
その声は小さく震えていた

本当は
返事が欲しかった
そっちの方が、すっきりできるから

「いいよ、別に俺のわがままだし」

上総を困らせたくないのも本心
返事を聞きたいのも本当

本当は傷つきたくない
傷つけたくない

叶うならば、永遠に傍にいたい

「じゃあ、そろそろ帰るよ」
「うん、ばいばい」

無理して笑顔を作った
そんな俺に合わせるように
上総も笑顔を作った

「じゃあ、」
「うん」

二度目の言葉のやり取りを終わらせ
ドアを開き、部屋を出た
< 59 / 72 >

この作品をシェア

pagetop