ONLOOKER Ⅲ


千佐都の笑顔は、幼い。

普段は大人びた澄ました表情を浮かべているのだが、目を細めて両の口角をわずかに上げるだけで、たちまちつられて微笑んでしまいそうな幸せそうな顔になる。
もしその表情に効果音を付けるならば、ふにゃ、だとかへにゃ、だとか、そんな気の抜けたようなものがぴったりだろう。

いつもは『美人だけどキツそう』なんて評価されている顔の作りが、笑った瞬間に『かわいい』に早変わりするのだ。

あんな笑顔が見られるのなら、幼少の頃から家族同然に育ってきた彼らが多少過保護になってしまうのも、わからなくはない、と思ってしまう。

幼馴染みの彼らが千佐都を甘やかすには、他に理由なんて要らないだろう。
直姫にでさえ、笑った顔は見たいかも、と思わせてくれるのだ。

だからこそそれが、思わせ振りに愛想を見せるのは良くないと分かっていても、どうしても邪険には扱えない理由になっていた。

自分も他人に気を使えるんだな、と思って、直姫は窓越しの空に目をやった。

濁った水色。
雲は途切れなく広がっている。
太陽は、そんな灰色の上。
もうすぐ梅雨か、と。

雨は嫌いだ。


「真琴ー……」
「ん、なに?」
「雨、降りそうだよ」
「ほんとだ……昼休み、中庭はやめたほうがいいね」


雨は、嫌いだ。

思い出すから。


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