ONLOOKER Ⅲ


「直姫くん、おはよ」
「あぁ、おはようございます、東先輩」
「昨日はホントごめんね、うちの馬鹿どもが」
「いえいえ……はは」
「あ、佐野くん帰ってきたのねー」
「あ、すみません、お土産とかなくて……」
「全然いいのいいの」


真琴にとっても、二週間ほど前からなぜか直姫に懐いている先輩(身長差や温度差から、どうしてもそう見えてしまう)として顔見知りになっている千佐都である。

彼の目には、旅行前よりも温度差がさらに開いているように見えたことだろう。
北海道へ行っている間に起きた、彼女の幼馴染みたちと生徒会とのいざこざを知らないのだから、当然である。

端から見ればそんなに面倒なことのようにも思えないのが、厄介なところだ。

とはいえ実際には直姫も、先輩だし、女性だし、明らかに自分に好意を持っているということもあって、ずいぶん気を使っている。
その顔に貼り付けたデフォルトの表情は、猫かぶり生徒会長直伝の、他人に好印象しか与えない笑顔だ。


「あの、今日もお昼ご一緒してもいいかな……?」
「もちろん。真琴、いいよね?」
「はい、全然構わないですよ」
「やった! じゃあ、中庭でね」


千佐都は約束を取り付けるが早いか、鳴り出した予鈴に反応して、去って行った。

それを確認するためだけに、わざわざ西校舎に寄ったのだろうか。
まめなことではあるが、余計な体力と時間を消費してまで来ることはないのにと、直姫は思う。

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