ボーカロイドお雪
 あたしはこくんとうなずいて見せる。それから机の引き出しからデータ通信カードを取り出してパソコンの側面のスロットに差し込む。
 小さな地方都市だから光ファイバーなんて無い。だから無線で通信出来る方式にした。時々インターネットへの接続が不安定になるが、けっこう通信速度は速いから趣味でネットやる分には十分だ。
「オーケー。ちょっと待っててね」
 そう言うと画面の中のお雪はぴたりと動かなくなった。固まったのかと思ったが、マウスのカーソルはちゃんと動くからパソコンがフリーズしたわけじゃないらしい。一分ほど経ってお雪が動いた。
「情報は収集して来たわ。デスクトップにフォルダー作ったから開けてみて。」
 あたしは首をかしげながらキーボードでメッセージを打ち込む。
『あんた、今何してたのよ?』
「わたしはコンピューターのプログラムだから、インターネットに直接入っていろんなホームページへ行けるの。ちなみに今は楽器店のサイトを百二軒回ってきたとこ」
 げっ!たったあれだけの時間で百二!うーん、こいつ結構すごいかも。
 とにかくお雪が言ったフォルダーを開けてみると画像データがいくつか出てきた。一つはヘッドホンだけど、テレビで見たネットショッピングの電話受付のお姉さんが付けているような、口元に小さなマイクがくっ付いているタイプ。あと、ノートぐらいの大きさの薄っぺらいスピーカー。エレキギターをアンプにつなぐのに使うようなコードが数種類。他に細々した、よく分からない小道具類。
「それを揃えられる?」とお雪が訊く。
 うーん、貯金はたけば何とかなるか。あたしは画面の中のお雪に向かって右手でOKの合図をしてみせた。
 なにはともあれ、この辺の楽器店じゃ見つからないだろう特殊なタイプの物ばかりだから、買うにはネットショッピングの方が早い。あたしはお雪が指定した道具を揃えるために有名なショッピングサイトで商品検索を始めた。

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