ボーカロイドお雪
 お小言から開放されたあたしはさっそく部屋に戻り、お雪を使って曲を書いた。使い方は確かに普通のボーカロイドと変わりはないが、一つだけ違っている点があった。
 音階だけを指定した状態で音声を再生すると、声がぶつ切りみたいな感じに聞こえて不自然になるから、一つ一つの音をつなぐためのコマンドがある。それで音のつながり具合を滑らかにしたり、ビブラートを利かせたりして、より人間の声に近い自然な音のつながりにする。
 お雪にもそのコマンドが当然ある。が、そのコマンドの種類が途方もなく多い。多分普通のボーカロイドの三倍近くのコマンドだ。最初は戸惑ったが、お雪が使い方を細かく教えてくれたので、なんとか覚えた。
 途中までの作りかけのメロディーをとりあえず入力して再生してみる。すごく自然な音だ。音をつなぐコマンドの種類があれほど多かっただけあって、本物の人間の声にしか聞こえない。
 いや、お雪の声はある意味、もちろんいい意味で、人間離れしている。あ、お雪はそもそも人間じゃないけど、それでも音声データは誰か実在の人間の声を元にしているはずでしょ?
 女性、それも多分あたしと同じ年頃の少女の声だと思うけど、プロの歌手でもなかなかこれだけいい声している人はいないと思う。柔らかくて、澄んでいて、それでいてどこかピンと張った芯のような力強さが感じられる。
 さて、ボーカロイドとしてのお雪の使い方は一応覚えた。問題は、どうやってお雪で作った声をあたし自身の歌声として人に聞かせる事が出来るか、だ。あたしが考えあぐねていると、お雪が話しかけてきた。
「何か悩んでるの?」
 あたしは包み隠さず、自分の計画をキーボードに打ち込んだ。少しためらいはあった。それって実現できたとしても、他人をだます事になるから。それは分かっているのだけれど。
 お雪は数秒間腕を組んで何か考えていたが、不意に両手をぱちんと叩いてあたしにこう言った。
「かすみ、このPC、インターネットにつなげるの?」
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