ボーカロイドお雪
 やがて、これまたいつものように公園に人が集まり始め、あの人が公園の入り口に姿を見せる。それを合図にあたしはジャーンと、いつもより派手にギターをかき鳴らしてライブの始まりを告げる。
 用意しておいたロック調の曲を立て続けに演奏する。今日は硬めのピックでギターの右側、つまりお尻に部分に近いあたりを狙って六本の弦を激しくかき鳴らす。
 ギターの弦というのはネックに近い所ではじくと比較的柔らかい音色になり、お尻に近い所ではじくとシャープで金属的な音色になる。まあ同じギターだから、それほど大きな差は出ないけど、今日はロック調の曲ばかりだから出来るだけエレキギターに近い感じの音にしたい。
 お雪の歌も悪くはなかった。ボーカロイドだから音程は完ぺきだし、今日はワイルドな声が出るようにソフトを設定してある。そう悪くはないのだけれど・・・
 でも、やはり何となくぎこちなさを感じた。自分で設定しておいて言うのもなんだけど、やっぱりお雪の声にはロックは似合わないかな?
 今日は派手な曲だったせいか、見物している公園の人たちもノリが良さそうに見えた。若い男の子の中には立ち上がって腰を振って踊っているのもいた。
 でも、あたしの注意は演奏中も常にあの人の姿と反応に向けられていた。そして・・・これもいつも通りだった。あの人はやっぱりあたしの方に背を向けて、川べりの手すりに寄りかかり視線は空を見ていた。
 曲が終わっても、周りの人たちが拍手を始めるのをキョロキョロと見渡してから、それから初めて自分も一拍遅れておずおずといった感じで手を叩く。
 うーん、これもダメか!あたしって背も高い方じゃないし、ルックスやスタイルも悪くはないと思うけど普通の範囲だしな。ロック歌手気どりは無理があったのかなあ、やっぱり……
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