私立聖ブルージョークス女学院
 そう言って部員たちが茶壷から茶葉を急須に移す。茶葉も変わっていた。針のように細く鋭い形で色も緑というより黒っぽい。それに茶釜で沸かしたお湯を小さな木の柄杓で何回にも分けて急須に注ぐ。
 蓋を閉めたらそのまま数分待ち湯のみに注ぐが、急須をほとんど直角に倒して最後の一滴まで絞りだす。
 全員分が出来上がったところで、部長の葉月琴音が水から僕の湯のみを運んできてくれた。茶卓に乗せた小さな湯のみを優雅な動きで座布団に正座している僕の前に置き、そのまま体の向きを変えずに器用に後ろに戻って行く。
 いや気楽なと言われたが、これでも素人の僕には充分緊張するな。僕は湯のみに手を伸ばしたが、どうにも気になって彼女に訊いてみた。
「あの、葉月君。こういうのにはやはり作法とかあるのか?」
「いえ。両手で持って普通にお飲みになればいいんです。煎茶道にはそれほど堅苦しい決まりはありませんので、どうぞお気楽に」
「そ、そうか。では遠慮なく」
 おっかなびっくり湯のみを取り上げると意外に熱くなかった。というより、ぬるいぐらいじゃないか、このお茶。口に含むと、しかし、これは驚き。お茶なのに、ほんのりと甘い味がする。
「いや、驚いたな。お茶を甘いと感じたなんて生まれて初めてだ」
 葉月琴音が自分のお茶を上品な仕草ですすりながら説明してくれた。
「はい、これはギョクロですから」
< 25 / 38 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop