インサイド
 こんなことは次のレッスン時間まで棚の上に楽しみは寝かせておくとして、今はもっと目先の思いつきを楽しむことにしてみよう。

抱えすぎている教本を、千帆は遥に開いて見せて、

「遥くんって、これ弾けるよね」

「やったことはあるけど、どうだろう。かなり前の話だし」

「いいいい、どんなに前だって。弾いてみて。お願い」

「なんかへろへろだね」

「うん、ごめん。さっきちょっと興奮して」

 まさかその理由までは言えない。

問い詰められても決して吐くまい、と勝手に意志を強く固め、千帆は実際はどうでもしっかり赤面している気分で、ページを押さえ直した。丸まってしまう、どうしても。


「譜めくり、やらせていただきます」

「じゃ、お願いいたします」

 
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