インサイド
 あの人が演ろうと言うからには、半端なものであるはずはないのだけれど、しばらくの間、千帆は真剣に譜をたどってしまっていた。

簡単ではないと言うことははっきりとわかる。

しかも遥がそんな表情で『ちゃんと』と表現するのだから、並大抵であるわけもなく。

 ひょっとしてあのピアノのようなヴァイオリンを弾くのだとか?

 わりと簡単に想像ができて、それはきっとホンモノなんだろうと思った。

すべての音楽を手中に収めてしまっているなんて無茶を、できると言われれば信じてしまう。

兄弟子だと名乗った麻生はチェロ専攻なのだ。

ということは、まさかチェロまで弾くのだとか。真偽を確かめることが怖い気がする。

「凄すぎて怖い人なのかも」

「うん。すごい怖い人だよね」

 生じているずれにはまったく気付かず、千帆はうなずいていた。

遥が言葉を継ごうとしたその時、予告もなしにドアは開き、
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