真昼の月
沈黙が続いた。トモの息遣いだけが聞こえた。

「止血……したのか?」

彼はそういった。

「いいえ」

切った腕を下に向けていたので、だらだらと血が流れつづけていた。

「今、切った写真を撮ったの。また、ホムぺにアップするから見て頂戴ね」

あたしはそう言った。

彼は沈黙したまま電話を切った。 

「…… 痛い」

そう呟いてあたしは傷口をしっかり押さえた。
痛いよう……寒いよう……木枯らしみたいにかすれた声がする。自分の声のようでもあり、 誰か知らない人の声が遠くから響いているようでもある。

窓の外は暮れかかっていた。オレンジいろの陽がカーテンの隙間を染めていた。止血のために左手を上げて傷を包帯できつく縛った。

ピルケースを探し出し鎮痛剤と眠剤を取り出しす。5錠ずつ口に入れてごくごくとお水を飲んだ。頭の中に靄がかかって、胸の中に隙間ができる感じ。次第に眠気に襲われる。意識のプラグがコンセントを外れる。

服を着たままずるずると床に倒れこみ、深い底なしの闇にあたしは放り込まれた。

白い日差しが目に染み込んだ。目やにで開かない瞳に目薬をさしたみたいだった。

朝を迎えたということはわかった。でも何時なのかわからなかった。壁の時計は止まったままだ。電池が切れてからずっとそのまま入れ替えていない。携帯の時計で時間を見ようとしたら、どこを探しても見当たらない。

時間から置き去りにされるというのは奇妙な気分だ。昨日の夕方から意識がなかったのだからおおよそ十時間以上は眠っているはずだ。深い眠りを貪った額の辺りはさえて、後頭部に鈍痛が残る。

床に転がったまま眠ってしまったのでからだのふしぶしが痛む。首を曲げるとぐきっと音がした。

はぁ……ため息が出た。

期せずして携帯が鳴った。探しているうちに着信音は止まってしまった。そのとき、床と絨毯の間に挟まっているのが見つかった。

誰からだったんだろう……
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