真昼の月
しかし、打算は見事に覆された。
保護室に入れられて10日目、そろそろ退院できそうだ、
と思ったら主治医がこう言った。

「よかったねー。今度は開放病棟に移るからねー。今までよりも自由が利くし、外泊もできるよ」

「え?退院じゃないんですか?」

「君が保護室に入っている間、お父さんと面接してね、切ったのが初めてじゃないことを伺った。お父さんに伺わなくても、君の腕を見ればかなり切っていることくらいは分かる」

「・・・・・・そうですか」

「切っていいことは何もないよ」

「はい」


わかっていても切っちゃうから辛いんだけど、医者ってそこのところよくわかってない。

「でも、先生は普通の人だから切る人の気持ちわからないと思います」

「うん。わからないね」

かなりきっぱりと言われて寒い気持ちになる。

「それは病気だからだよ。健康な人に病気の人の気持ちはわからないけど、わかろうとして苦しみを取り除いてあげようという気持ちは起こるだろう?同苦というんだっけ?仏教用語でね。同じ苦しみを感じようとする心はあるよ。でも気持ちはやっぱりわからないね」

「そうですか」やっぱり何もわかっていない。
精神科医なんてそんな感じだ。いかがわしい。
何もわからないから薬漬けにしておとなしくさせているだけのような気がする。
それにいろいろなテストをされたけどそれがあたしの回復にどう繋がっていくんだろう。だいたいテストであたしはどうだったら正常だって証明されるんだろう。
あたしの心なんてあたしでもわからないのに、他人があなたはこうですよってどうして決められるの?不信感しか残らない。誰も信じられない。
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