夏の日の終わりに
「そういえば最近してもらって無いよ」

 思案に耽りそうな僕を理子が引き戻した。

「え……?」

 何を、と答えを聞く前に、目を閉じた理子が唇を突き出す。

 そういえば、いつ以来なのだろうか?

「もう、早く」

 そう言うと、口の端が少し笑みを作った。

 僕は顔を近付け、その愛くるしい唇に唇を重ねる。キスに情欲を満たすためのものと愛しさを表現するためのものがあるとすれば、これは間違いなく後者だ。

 愛しい……ただ、愛しかった。

「脩君、愛してる」

 長い抱擁の後、理子から今まで何度も聞いた言葉が洩れた。

「俺も」

 僕はまだ「愛してる」とは言えてない。でも愛してるという気持ちは本物だと──


『ホントニソウカ?』


 美香さんを抱いた罪悪感が、この時から纏わり付くようになる。それを振り払うかのように僕は強く言った。

「ずっと一緒に居てあげるから」

 その言葉を聞いた理子は、僕の腕を強く掴み、そして胸に顔を埋めた。

「ホントに……?」

 ズっと鼻を啜る音が聞こえ、肩が小刻みに揺れる。

「もう離れないで居てくれる?」

「うん」

 そのまま理子は、また泣いた。


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