妹神(をなりがみ)
 十一日目にやっと起き上がれるようになり、久しぶりに三人そろって夕食を取っている時、美紅が突然こう言い出した。
「お母さん、ニーニ。一緒に沖縄に行こう」
「へ?」
 俺は箸でつまんでいたおかずの焼き肉を思わずポロリと皿に落っことしてしまった。
「まあ、俺は夏休みだから別にいいけどさ。母さんは仕事があるだろ?」
 その母ちゃんは別に驚いた様子もなく、黙々とご飯を口に運びながら美紅に訊き返す。
「久高島?」
 美紅がこくんとうなずく。
「そうね。大学も夏休みに入っているし、有給休暇もたまりまくっているのよね。それに今後こっちがどう出るとしても、美紅を回復させるのが先決かもね」
「美紅。まだ体きついのか?」
 俺の問いに美紅は小さく首を横に振る。
「ニーニと絹子さんのおかげで体はだいぶ良くなった。でもあたしは琉球神女だから、沖縄から遠く離れた場所では霊力の回復が遅い。それにあの女の人がまた襲って来たら今のあたしでは勝てない。久高島ならしばらく隠れるには都合がいい。あそこは田舎の離れ小島だから」
 俺は一瞬背筋がぞくっとした。そうだ、美紅の看病に夢中で忘れていたが、正体は分からないが、あの殺人鬼は必ず俺をまた襲いに来る。母ちゃんが食べ終わってお茶をすすりながら言った。
「いいかもしれないわね。あたしの見立てが正しければ、あの殺人鬼はあと十日ぐらいは動かないはず。いいわ、明日すぐに有休の申請出せば一週間後には出発できるわね。雄二も美紅も用意しときなさい」
 沖縄か。俺は行くのは生まれて初めてだ。夏休みの楽しみの旅行というわけにはいかないが、このまま東京で何もできないでじっとしているよりはいいか!
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