妹神(をなりがみ)
 だが美紅はその像に手が触れる位置まで平気で近寄り、そして俺の方を振り返ってこう言った。
「ニーニ、大丈夫。これは邪悪な物じゃない」
 それから両手をその小さな像の左右にかざし、しばらく目を閉じていた。そしてまた美紅が俺に向かって思いがけない事を言った。
「むしろ、何か神聖な物……アマミキヨ様と同じ感じがする……」
 な、何だって?唖然としている俺の片手を引っ張って立たせながら母ちゃんが言った。
「それはね、マリア観音よ」
 何だ、そりゃ?観音様の像?いや、でもそれなら仏像だろ。マリアが上につくってどういう事だ。俺の質問に母ちゃんが答える。
「一見仏像に見えるでしょ?観音菩薩像にね。でもそれは本当はキリスト教の聖母マリア像なの。腕に抱いているのは生まれたばかりのイエス・キリストなわけ」
「え!キリスト教と仏教がゴッチャになってんの?」
「それはね、昔隠れキリシタンが拝んでいた物よ。どう?雄二。あの時山崎隆平君の家で見たあの人影に似てる?」
「いや、あの人影はぼんやりとしか見えなかったし、この像もだいぶ古ぼけてるから、はっきりとは言えないけど……でも、似ている。同じように見える」
「美紅はどう?」
 母ちゃんの声に美紅はそのマリア観音像とかいう物から離れながら答えた。
「あたしもそう思う。でもそれは見た目だけ。この像からは神聖で優しい波動を感じる。あの人影からはとても邪悪な物を感じた。そこは正反対」
 俺はすっかり混乱してしまっていた。なんであの殺人鬼の姿と同じような形の像がここにあるんだ?それに美紅はこの像は神聖な物だと言う。何がどうなっているんだ?俺は思わず母ちゃんに詰め寄った。
「一体どういう事なんだよ、これは?」
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