俺の彼女はインベーダー
 二尉の説明を簡単にまとめるとこういう事らしい。人間の脳から神経に伝わる信号も一種の電気信号だ。だから脳波もまた電気信号の一種とみなす事が出来る。
 人間の脳波は周波数によって、アルファ波、ベータ波、シータ波、デルタ波に分けられる。このうち最も周波数が短いのがデルタ波で、帯域は1から3ヘルツ。自衛隊の通信部隊が検知した謎の電波の周波数と同じだ。
 この4種類の脳波は、起きている時と寝ている時では現れる割合が違う。デルタ波はものすごく深い眠りに落ちている時にだけ脳波の半分以上を占めるらしい。つまり、もしラミエルの言う脳波転送説が正しければ、マクスウェルの魔女2号は眠っている人間の脳に夢を見させるという形で、何らかの思念を送り込んでいる事になる。
 何のためにそんな事をしているのかは分からないが、その可能性がある以上何か手を打たないといけない。日本中なんていう広い範囲に電波を送っているとなると、その出所は間違いなく東京タワーのはずだ。
 桂木二尉はさっそく自衛隊に東京タワー付近の捜索を頼んだが、しかし謎の電波の発信源らしき物は全く見つからなかった。以前に撮影したマクスウェルの魔女たちの顔写真を持って、俺とラミエルは街中で聞き込みをやってみる事にした。
 通行人に写真を見せて「この二人を見かけた事はありませんか?」と片っ端から聞いてみるわけだ。昔テレビの刑事ドラマでよくあったシーンで俺は何となく自分がカッコよくなったような気がして浮かれていた。
 だが、東京タワーの周辺で何日もやってみたが目撃したという人はさっぱり見つからない。もうあきらめかけて、これで最後にしようと思って、俺は車道脇に停まっている黒いバイクの上の女の人に声をかけてみた。この蒸し暑いのに真っ黒なライダースーツに全身を包み、猫耳みたいにとんがった出っ張りのある黒いフルフェイスのヘルメットをかぶっていて顔は見えない。バイク便かなんかやっている人なんだろうか?
 その女性は俺から渡された写真を数秒見つめ、やおらライダースーツの懐から掌サイズのタブレットPCみたいな物を取り出してキーを素早く打ち、無言で俺のその画面を向けた。ひょっとして口がきけない人なのか。その画面をのぞきこんだ俺は、次の瞬間飛び上がった。そこにはこういう文章が表示されていたからだ。
「ある。わたしの家の近くでよく見かける」
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