俺の彼女はインベーダー
第4章 麻耶対アメリカ、経済戦争
 ラミエルと出会ってから一ヶ月が過ぎ、今日はいよいよ待ちに待った彼女の軍資金が届く日だ。といっても三十グラムにも満たない金で、八万七千円にしかならないのだが。
 既に予備校はもちろん普通の学校も二学期に入っているので、さすがに妹の麻耶は同行出来ず、俺とラミエルの二人で上野の近くの貴金属店まで金を売りに行ってきた。
 運よく金の相場が少し上がっていたらしく、その日は八万八千円で売れた。まあ大した差はないのだが、ラミエルの食費とかの面倒は俺が見ているから一円でも多いのはありがたい。いやそれ以前に、地球征服の資金なんだがな、これは。
 金がなくて二人ともろくな物食べてなかったので、今日は俺の金でだが、久々に贅沢をすることにした。アパートへの帰り道にある商店街で牛挽肉入りコロッケを買うという贅沢をしたのである。贅沢の基準は人それぞれなんだから、ここはツッコミ禁止!
 一人一個ずつ買おうとしたら、店のおばちゃんが袋に三個入れた。俺はあわてて言った。
「ちょっと、おばちゃん、頼んだのは二個だよ」
 おばちゃんは人差し指を口に当てニヤッと笑ってこう返す。
「しっ!いいんだよ、どうせ今日は売れ残りそうだしさ。あんた達食べ盛りなんだから気遣わないで持ってきな。彼女にひもじい思いさせちゃ男が立たないだろ?」
 東京は大都会、人間関係も希薄で……などとよくテレビで評論家が、したり顔で言っているが、俺のアパートの周辺はいわゆる下町。こういう人情のある個人商店も結構まだ残っている。
 ラミエルはよっぽど感激したらしく「ありがとうございます」を連発してその店が豆粒ほどの大きさになるまで遠くに離れても何回も振り返って頭を下げていた。
「わたしの星では、食料を他人にただであげるなんて考えられない事なんです」
 アパートへの帰り道、コロッケの入った紙袋をまるで宝物みたいに大事に胸に抱えて彼女はそう言った。なるほど、他の星を征服しなきゃならないほど追い詰められた社会なら、そうなのかもしれないな。
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