-恋花火-
「祥太郎は?店継いでんの?」

「たぶん、継ぐんだと思います」

「ふーん、そっか」


センパイは郵便局の窓から、道路のむこうの呉服店“こうのや”を見やった。

でも、今の私は、祥ちゃんのことを出されたくない気持ちで、外を見る気にもなれなかった。


「…私、あきらめようと思います」

「あきらめるって?」

「祥ちゃんのこと。ずっと片思いばっかりで、苦しいばっかりで、もうやめようって…」


好きだけど、どうにもならない。

センパイが笑って許してくれたみたいに、私だって笑顔で祥ちゃんの幸せを願おうって。

そう思ってるけど…

思い込もうとしてるけど…


「結芽はカワイイから、祥太郎にはもったいないよ。もっといい男のが似合うって」


冗談っぽくセンパイが言った。

きっと世間的には、無愛想な祥ちゃんよりも、優しい及川センパイのが“いい男”。

わかってるよ?

わかってるけど、どうしようもないの。


「そうだ、結芽」


急に思い出したようにセンパイが言う。


「来週の花火大会、一緒に行こうよ」

「……え?」

「オレとじゃ嫌か?」


ぜんぜん嫌じゃない。

だから、迷う。
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