冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 一瞬だけ。

 そのまま、彼に強く抱きしめられるかと思った。

 直後。

 バカッ!

 メイは、自分を叱った。

 何てことを思うのか、この頭は。

 そんなことがあるハズもないのに。

 また、自分を叱らなければならない。

 何てことを考えるの、と。

 昨夜、何もしないでくれたカイトに向かって。

 それが、どういう意味かはまだ分からないが、もしかしたら彼にとってひどく失礼なことを考えているのかもしれないのだ。

 もしも。

 もしもだが、カイトが若い男ではなく女性だったり、老紳士だったりしたならば、彼女だってもっと違うように考えられたかもしれない。

 お金持ちのきまぐれな優しさとか、そういうものに。

 でも、カイトは若く力強く――どうしても男の匂いがした。

 色気をまき散らすような男じゃない。

 そうじゃなくて、もっと不安を感じさせるような、何が起きるか分からない力を感じる。

 そう。

 爆弾。

 いまにも爆発しそうで、メイは身構えてばかりだ。
 こんな側で爆発されたら、きっと彼女は粉々になってしまうだろう。

 グイッと腕が引っ張られた。
 力と体温を、手首に感じる。

「あっ」

 思わず、声がこぼれてしまった。

 突然のことに、驚いたのもあった。

 自分の想像のせいでもあった。

 彼の感触の全てが、全身に走り抜ける。

 それからは、足を踏み外さないように階段を下りるので精一杯だった。

 カイトが、ぐいぐいと引っ張るせいだ。

 意思の強さを感じられる背中ばかりが、目の前で上下に揺れる。

 けれども、たった一カ所つながった手だけは離れない。

 痛いくらいに、すごく強い。

 階段が、まるで違うもののようだった。

 安定しない視界と、自分の意思ではない力と、自分の胸と彼の背中と。

 最後の一段のところで、ようやくメイの視界に、背中以外のものが飛び込んできた。
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