冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 あんなもんを食うぐらいなら…!!

 考えかけた言葉の先を、彼は続けられなかった。
 何故なら、その先には地雷があったから。

 あんなもんを食うぐらいなら。

 あんな、取り澄ましたツンケンした料理よりも。

 何てこった。

 分かってしまったのだ。

 この舌は。

 この舌は、あんな料亭の料理よりも―― メイの方がいいと言うのである。

 カレーの味が忘れられないのだ。

 あれに比べれば、今日の料理をまずく感じても当然だった。

 とんでもない結末である。

 これでは、どこに食事に出かけても一緒だ。

 どんなに高い店でも、うまいと評判の店でも。
 結局、自分の舌が求めているのは、メイの料理なのである。

 カイトは呆然とした。

 こんな舌を持っていたら、彼女は全然楽できない。

 働かなくてもいいと思っているのと裏腹に、手料理を食べたがっている自分がいて。

 見事な矛盾だった。

 しかし、その矛盾を解き明かすことがことが出来なかった。

 それより前に、助手席で言葉を続ける者がいたのだ。

「あんなおいしいものに比べたら…」

 言葉尻は、メイの足元の闇にすぅっと沈んでいった。

 え?

 カイトは、分からなかった。

 彼女が何を言おうとしているのか、しばらく理解できなかったのだ。

 しかし、優しい彼女は続けてくれて。

「どうして、私をあの店に連れて行かれたか…意味が分かりました」

 ぽつり。
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