冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□
その大事な打ち合わせの日。
何を、こんなところで立ち止まってグズグズしているんだ、オレは。
カイトは、振り切るように前を向き直った。
そうして、改めて階段を下り始めようとした。
下でシュウが待っているハズである。
ガチャ。
なのに、おそるおそるという雰囲気でドアが開いたのだ。
彼の背中で。
途端、凍ったカイトの身体。
後ろのドアなど開くはずがない。
この家には、カイトとシュウしか住んでいないのだから。
だから、そのドアを開けられる人間などいない――ただ一人を除いて。
氷が溶けるなり、バッとカイトは振り返った。
ドアから、黒い頭が出ていた。
首だけ出してキョロキョロしている。
その茶色の目が、カイトで止まった。
ドキン。
視線に縫い止められたように、カイトは動けなかった。
「あ…あのっ……」
声が呼ぶ。
間違いなく、カイトに向かって。
彼が反応できずにいると、ドアの影から身体を滑り出して、小走りで近づいてくる。
シャツ一枚の姿で。
「ばっ! 何で出てくんだ!」
はっと戻ってきた意識をぶん殴りながら、カイトは怒鳴った。
とてもじゃないが、シャツ一枚で寒くないところではないのだ。
いや、それ以前に、余りに頼りない姿なのである。
「すぐ…戻りますから」
すみません。
たたっとカイトの真ん前まで来ると、ぺこんっと一つ大きく頭を下げる。
いきなり、手が。
彼女の白い両手が彼に伸びてきた。
思わず、身体が後ろに傾ぎそうになる。
あやうく階段からダイビングしそうになって、慌てて手すりに捕まった。
「どうしても……あ、すぐ終わりますから」
その手が、カイトの首に。
触んな!
カイトは、身体が石像になったような気がした。
そう思っても動けなかったのだ。
触れられたのは、彼の首――ではなく、ネクタイだった。
その大事な打ち合わせの日。
何を、こんなところで立ち止まってグズグズしているんだ、オレは。
カイトは、振り切るように前を向き直った。
そうして、改めて階段を下り始めようとした。
下でシュウが待っているハズである。
ガチャ。
なのに、おそるおそるという雰囲気でドアが開いたのだ。
彼の背中で。
途端、凍ったカイトの身体。
後ろのドアなど開くはずがない。
この家には、カイトとシュウしか住んでいないのだから。
だから、そのドアを開けられる人間などいない――ただ一人を除いて。
氷が溶けるなり、バッとカイトは振り返った。
ドアから、黒い頭が出ていた。
首だけ出してキョロキョロしている。
その茶色の目が、カイトで止まった。
ドキン。
視線に縫い止められたように、カイトは動けなかった。
「あ…あのっ……」
声が呼ぶ。
間違いなく、カイトに向かって。
彼が反応できずにいると、ドアの影から身体を滑り出して、小走りで近づいてくる。
シャツ一枚の姿で。
「ばっ! 何で出てくんだ!」
はっと戻ってきた意識をぶん殴りながら、カイトは怒鳴った。
とてもじゃないが、シャツ一枚で寒くないところではないのだ。
いや、それ以前に、余りに頼りない姿なのである。
「すぐ…戻りますから」
すみません。
たたっとカイトの真ん前まで来ると、ぺこんっと一つ大きく頭を下げる。
いきなり、手が。
彼女の白い両手が彼に伸びてきた。
思わず、身体が後ろに傾ぎそうになる。
あやうく階段からダイビングしそうになって、慌てて手すりに捕まった。
「どうしても……あ、すぐ終わりますから」
その手が、カイトの首に。
触んな!
カイトは、身体が石像になったような気がした。
そう思っても動けなかったのだ。
触れられたのは、彼の首――ではなく、ネクタイだった。