冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 苛立っていながらも、苦しくていまにも死にそうな顔をしているのか。

 何かが、激しくカイトの中で荒れ狂っている。

 その何かを、彼女に全部ぶつけているようだった―― こんな形で。

 痛い!

 ぐっと押さえられた手首に、血が止まるほど強く力を込められる。

 この痛みは、どう翻訳すればいいのか。
 どうすれば、カイトを理解できるのか。

 頭の中で火事の警鐘が鳴り響く。

 火事よ。危険よ、逃げて!

 自分の中の、女の防衛本能がそう悲鳴をあげる。

 違う。

 その本能に、メイは逆らった。

 カイトは、そんなこと。

 これは、火事じゃない。

 いや―― もう火事でも何でもよかった。

 ただ、逃げるワケにはいかなかったのだ。

 危険であっても、この火事で全部が焼けて、あるいは自分が焼けてしまったとしても。

 カイトを置き去りに逃げるワケにはいかなかったのだ。

 彼は、私を助けてくれた人だ。

 彼は―― 私の好きな人だ。

 メイは。

 目を閉じた。

 そうしたら、涙が伝ったのが分かった。

 そして。

 強ばったままだった身体の力を―― 抜いた。
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