冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カイトを殴り倒してでも逃げようとしなかったのだ。

 それが、彼を我に返らせたのである。

 そんな都合のいい話が、あるはずがなかった。

 となると、答えはもうたった一つしかない。

 借金があるから。
 カイトが、恩人だから。

 だから、彼女はイヤだと言わなかったのだ。

 イヤじゃないハズがない。

 誰が、思いもしていない男に、無理矢理抱かれたいと思うのか。

 欲しいという感情だけが暴れ出して、手綱を振り払ったのである。

 暴れ馬は彼を振り落とし、メイを踏みつけにしようとした。

 いや。

 もう踏みつけにしたも同然だ。

 あんなに信用してくれていた彼女を、カイトは力まかせに裏切ったのである。

 これでは、金にあかせた連中と、何一つ変わらないではないか。

 借金の恩のせいで抵抗できない彼女に。

 最低の人種だった。

 よろけるように、メイから離れる。

 ベッドからも降りた。

 一歩後ろに下がる。

 もう一歩。

 あれだけのことをしてしまって、どうして側にいられよう。

 今度こそ、悪い夢だと誰かに言って欲しかった。

 彼女が行方不明になるところから、全部夢だと。

 誰か言え! オレを起こせ!

 でなければ、本当にメイを失ってしまう。

 しかも、今度は自分自身の手で終わりにしてしまったのだ。
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