冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 腕が落ちたら、落ちたまま戦い続けるゲーム。

 傷なしで勝ったとしても返り血を浴び、化け物に負けたら、食われて養分を吸い取られる。

 吸い取った化け物は、その人間の力を得て、更に強大になって襲いかかってくる。

 弟を食った化け物と戦えば、弟が現れる。
 彼女を食った化け物と戦えば、彼女を殺さなければ先に進むことは出来ない。

 人間側も、化け物を食うことは出来るが、食えばただの殺人鬼と化す。

 べらぼうに強くはなるが、誰もそのキャラクターを扱うことは出来ない。
 ただ自由にMAP上を駆けめぐり、何の策略もなく敵を殺していくだけだ。

 もとより。

 人間には、余りに分の悪い戦いだった。

 これで勝てと言う方が難しいくらい。

 それこそ、キャラクターたちに化け物を食わせて、全員殺人鬼にでも仕立て上げ続ければ別だ。

 ただし、それではプレイヤーはつまらない。

 シミュレーションゲームの醍醐味である、自分が操作する駒がなくなるのだから。
 殺人鬼たちは、勝手に戦場を荒らすイレギュラーに成り下がるだけだ。

 そんなプログラムを、日曜日から今日までの3日間で、ある程度形にしていた。

 しかし、カイトは無表情だ。

 ただ事務的にキーボードから命令を入力していく。

 何度もコンパイルをかけ、リンクして、テストプレイをし、またプログラムを直す。

 何の仕様書もないそれを、誰も関わらせることなく一人で黙々と作り続けていた。

 カイトは絵には無関心だ。

 右脳は発達しているが、絵の才能はないのである。

 だから、いろんなゲームから画像を引っ張ってきて、戦場や駒の辺りは簡単にこしらえた。

 メインのキャラクターの画像なんかはない。

 しかし、彼の右脳では鮮やかなムービーとしてよみがえるのである。

 ドロドロに溶かされていく戦士。

 化け物として甦ったキャラクターと、それを斬り殺す騎馬兵。

 とてもじゃないが、完成したからと言って、どこで発売できるものでもなかった。

 エンターテイメントでもなければ、愛でも勇気でも希望でもない。

 生きていたければ、腕を失っても返り血を浴びても、殺していかなければならないのだ。
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