冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□18
 うー…イライラする。

 カイトは、社内会議の最中にうなった。

 後半の言葉は出てこなかったが、うなりだけは漏れたようで、ぱっと他のメンバーの視線が飛んでくる。

 はっとそれに気づいて、乱暴にせき込むと、企画書に目を落とした。

 しかし、一向に文字が目に入ってこない。

 こんなことは初めてだった。

 カイトだって、仕事はキライじゃない。

 それどころか、自分の読みが当たった時など、まるで万馬券を出したような、いい気持ちになる。

 彼にとって仕事は、ギャンブルだったのだ。

 労働――という自覚が出るのは、ネクタイを締めさせられる仕事だ。

 その時だけは、本当に足や気分が重くなるのだが。

 隣に座っているシュウが、彼を横目で見ているような気がしてしょうがなかった。

 絶対、そっちを見ないようにする。

 彼に、自分の心の辺や対角線の長さを測られてはたまらないからだ。

 カイトは、ネクタイをまだぶらさげたままだった。

 社内においては、社長のネクタイ嫌いは有名である。

 締めているところを見た人間など、数えるほどかもしれない。

 大体、対外的な業務以外であれば、すぐに開発室にこもるような社長なのだ。

 あの電磁波の中が、一番落ちつく場所だった。

 たとえ電磁波とやらで早死にしようが、絶対にそれだけはやめられないだろう。

 新入社員の開発スタッフが、シャツにジーンズで開発室にフラリと入ってきたカイトを、部外者だと思って注意したことがある。

 この会社の笑いぐさとなっている事件だった。

 シュウとのコンビが絶妙のおかげか、会社の業績も開発環境も、今のところ文句ナシだ。

 おまけに。

 カイトは、あの、現スタッフのほとんどを狂わせたゲームを開発した男である。

 あのゲームを作った男の会社に入りたい――そういう連中がほとんどだった。

 すげぇ。

 カイトへの評価は、品のない表現でいくと、それだ。
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