君を探して
彼女が彼氏に「ありがとう」と言い、2人は見つめ合った。

2人は扉の手前まで人混みをかき分けて進むと、さらに体を密着させた。


(やめて!)

私は思わずそう叫びそうになった。



その人はヤマタロじゃないって、分かっているのに。

頭では分かっているのに。



急ブレーキとともに電車が止まる。

そのせいなのか、それとも故意なのかは分からないけど、2人はぴったりと身を寄せて抱き合った。

彼氏は彼女をぎゅっと抱きしめて、

彼女は幸せそうな表情で目を閉じて……




 やめて。


 もう、やめて。


 ヤマタロに触らないで!

 ヤマタロも、他の女の子を抱いたりしないで!!



扉が開くと、人の波に押し流されるように、2人は電車を降りて行った。


私は、2人の姿を必死に目で追いかけた。


 行かないで!

 ヤマタロ、行かないで!! 


だけど2人の姿はすぐに人混みに消えてしまった。

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