ヘンゼルとグレーテル
ごちんっ。

「いてっ」

馬車ががくんと揺れた。段差にでも引っかかったのだろう。
荷台の一番上に乗っている木箱の蓋がぱかっと開いた。

中から小さい男の子が出てきた。金色のさらさらの髪の毛がぐしゃっと乱れている。男の子はそれを片手で直しながら木箱から下へと飛び降りた。

「くすくす」

そして次は女の子が出てきた。男の子と全く同じ顔だ。二人ともとても可愛らしい顔立ちで、同じ青い綺麗な瞳を持っている。

「笑うなよ、姉さん」

「ふふ、ごめんなさい。ぶつけたところ痛くない?ヘンゼル」

ヘンゼルは自身の頭のてっぺんを撫でながら笑った。

「平気だよ、姉さん。姉さんこそどこも痛くない?狭かったでしょ?」

「平気よ、ヘンゼルとならどこにいても嬉しいわ」

そう言い、長いスカートをひらりとさせ、グレーテルの隣へと下りた。

「僕もグレーテルと一緒なら何処にいても、何をしていても嬉しいよ」

二人は同じ笑顔でにっこりと笑いあう。

「今思ったのだけれど、私達の入っている箱が一番下にあったりしたらどうしてたの?」

グレーテルが聞く。

「さあ、そこまでは考えてなかったなぁ。僕達は運がいいんだよ」

ヘンゼルは悪戯っぽく笑った。
もう、とグレーテルはため息をついた。

がたんっ

また馬車が大きく揺れた。

「何処に向かっているのかしらね。どんどん道が悪くなっている気がするわ」

「そうだね。大きな街には行かないようだから都合はいいよ」

本当に運がいいのかもね、とグレーテルは笑うと側面にある小窓を見つけ、木箱に上り、外を覗いた。

外には長く、大きな木々が続いている。その木々の葉は赤や黄、そして茶色と、森を秋色に染めている。舗装されていない砂利道を、馬車は森の奥へと進んでいた。

「僕にも見せて、姉さん」

ヘンゼルもグレーテルと同じく窓を覗き、二人で外を眺める。

「後であの中を一緒に歩きましょう」

グレーテルが微笑む。

「うん、楽しみだね」

二人は、「秋」を、生まれて初めて見たのだった。
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