シーラカンスの唄


帰り際。
駅のホームで思わず立ち止まってしまう。

時間も違うだろうし、反対側を見てもいるはずがない。
アイツはこの街のどこにもいるはずがない。

そんな事は解っている。
…解っているはずなのに…。

眼はどうしても見えないアイツを探していた。


『3番線に電車が参ります。黄色い線の内側までお下がり下さい。』

しばらくすると、ホームには電車到着を知らせるアナウンスが流れた。

(…やっぱり居るわけないか…。)

溜息をついて、到着した電車の入口に並ぶ。
空いているせいか、ギリギリに並んでも列の1番前になった。

そして、到着した電車の扉が開いた瞬間、時間が止まった。

「「…………。」」

まさかの、目の前にアイツのソックリさんが現れた…。

「………朱香…?」

一瞬悩んだ、ソックリさんはそう声を出す。

(………まさかの本物?)

ソックリさんで名前を知っていたら、可笑しすぎる。

でも……。
どうして………?


「重樹………?」


思わず名前を口にした。

ずっとずっと…忘れていた、しまっていた。
大切な人の名前を…。


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