三度目のキスをしたらサヨナラ
自由席は1号車から3号車まで。
だけど、私が駆け込んだ車両は列車のほぼ中央、8号車だった。


──自由席まで、まだかなり歩かなければいけない。

私は息を整える間もなく、先頭車両へ向けて歩き始めた。


列車が大きく揺れるたびに、疲れ切った私の身体は左右に振られ、とっさに座席の背もたれを掴んでバランスを保つ。

新幹線に乗るのは中学の修学旅行以来だけど、こんなに揺れるものだったかな?

座席は進行方向を向いているので乗客の表情までは見えなかったが、スーツ姿のビジネス客が多いように見えた。

途中にある喫煙車両を通り抜けるときには、一面に立ちこめるタバコのにおいにむせ、目を刺す紫煙に涙が出た。

そうしてようやくたどり着いた自由席の車両は、指定席のそれに比べると程よく席が埋まっていて、私が誰も座っていないシートを見つけたのは、車両の真中付近まで来たところだった。


《今日も新幹線をご利用下さいましてありがとうございます》


私がその窓側の座席に腰を落とした途端、車内にアナウンスが流れ始める。


《この電車はのぞみ55号、博多行きです。途中の停車駅は、品川、新横浜、名古屋…………》


私はコートも脱がずにそのアナウンスに耳を傾けた。

駅名が読み上げられる度に大きく頷き、続けてソウの住む目的駅が読み上げられるのを確認したところで、ようやく安堵のため息をついて背もたれにもたれかかる。


私は目を閉じて、日本語に続き英語で流れるアナウンスをじっと聞いた。
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