嘘カノ生活


***


「いってきまーす」



ある休日の正午、あたしはそう言って玄関で靴を履き、ドアノブに手をかける。

外に出ると、お昼ということだけあって気温も程良いくらいだった。

 

あれから、とても順調に。

1ヶ月が経過していた。

間宮さんも遅れていたレポートを出すので忙しい時もあったけれど、今は落ち着いている。

SASAKIにも戻ってきて、相変わらずの注目ぶりを発揮していた。


そして今日は、間宮さんがうちに遊びに来る日。

少し前に「今度お前の親に挨拶行くよ」と言い出してすぐに決まった。
 
間宮さんと待ち合わせの時間まで随分あったし、それ程遠くない待ち合わせ場所までは歩いていく事にした。


 
気温が温かいといっても、春の気温ほどでもない。

一応、と羽織ってきたコートのポケットに両手を突っ込む。

いつメールや電話がきてもいいようにと、その中で携帯に軽く触れていた。

 
眺める景色は都会でもければ田舎でもない、ただの住宅街。

幾度となく間宮さんと歩いた。

絶対に車道側を歩いてくれていた。

今それを思い出すとどうしてか照れくさくて、無意識に頬が熱を持つ。

 
こんな、ただの道でさえ思い出に溢れている。

くすぐったいような思い出も、ふざけあった思い出も。

きっとこの道を通るたびに思い出すだろう。
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