前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「空はああ見えて、あまり人に弱さを見せない奴だから…、あたしに隠しているのかもしれない。
だが、あたしは空が好きなのだ。不安があれば言ってきて欲しいというか、なんというか」
「ふふっ。それは空さまも同じことを思っていることでしょう。なにせ、最近のお嬢様はぼーっとしておられますから」
お松はいつもあなた方を見守っていますけれど、空さまも大層お気になされているご様子でしたよ。
「それに」許婚の件は言っても困らせるだけと思ったのでは、お松は言葉を重ねた。
「許婚の一件はお嬢様お一人の問題ではないですから。旦那様や奥方様、二階堂家の皆様とも直結しておりますし」
「空は家族を大事にする男だから、あたしの家族を思って何も言わないのかもしれない。父さまや母さまは、空との関係をお遊びだと見ているしな。
三女に期待なんかしていないくせに、財閥の面子だけはやたら気にして…、空との仲を認めてくれない。
命を張ってくれて守ってくれたというのに。
ばあやは…、やはりお遊びだと思うか?」
老婆は目尻を下げた。
「お嬢様はお気づきでしょうか?」
今が一番、一生懸命に日々を過ごしているのですよ、お松は皺だらけの手で鈴理の右手を取った。
「鈴理お嬢様が恋をしてからというもの、毎日が本当に楽しそうでたのしそうで。
家ではつまらなさそうに時間をお過ごししていましたので、少しばかり心配しておりました。許婚の一件はあるでしょうけれど、お松は思います。お嬢様は素敵な恋をしているのだと」
悩みも不安もひっくるめて素敵な恋をしていますよ、励ましに鈴理は力なく笑みを返す。
どことなく安心したのは第二の母の言葉に限りない慈愛が含まれていたからだろう。
理解者がひとりでもいてくれると心強いものだ。
「やっと実った恋だ」
だからこそ玲には負けたくない、吐露する鈴理にお松は相槌を打ってくれる。
心中ではセックスもしたいし、と呟き、水面を大きく蹴る。大粒の水飛沫が宙を舞い上がって水面に落ちた。
吹いてくる夜風を頬で受け止めていると、何処からともなく着信音が聞こえた。自分の携帯だ。