前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「っ……何故ですか」


 
ふと御堂先輩が目の前にいる友人達のことも忘れ、それこそ場も忘れ、どうして僕と彼を婚約させようと思ったんですか! と、声音を張る。
 
瞠目した鈴理先輩達なんぞ目に入らない王子は、激昂し、実の祖父を捲くし立てる。
 

何故、どうして、なんのために自分達を婚約させたのだと詰問。
 
貴方が出てくるとロクなことがない、奥歯を噛み締める彼女に、「何が不服だ?」彼は既に御堂家の配下においているというのに。動じることもなく、淳蔵さんは冷笑を浮かべる。

これでも孫思いなのだといけしゃあしゃあに告げ、「彼は御堂家のものだ」お前もこれを望んでいただろ? 良かったじゃないか、そうシニカルに笑った。

彼にとっても必然な救済だったのではないかと俺に視線を流す。


含み笑いを零した意図が俺には察することができなかった。

 
「私はね。誰でも良かったんだよ。それこそ彼でなくとも。例の件がなくとも彼は貧困に苦しんでいただろう。ワーキングプアと呼ばれる層にいる彼のような人間はこの世の中、腐るほどいる。だが玲、男嫌いなお前が彼を救った。お前が要らないなら解消しても良いが? 彼を戻すか? ワーキングプア層に」


初めて優しい笑みが醜悪な笑みに変わった。

ぞっとするような微笑だ。


「やり方が気に食わないだけです」


貴方のやり方はっ、必ず誰かを傷付ける。彼女の言葉に綺麗事だと、淳蔵さんが冷笑した。
 
次いで、俺の名を呼ぶ淳蔵さんは御堂家の名に相応しい男になるよう命令してきた。君のような人間の代替は沢山いるのだから。淳蔵さんの言葉に俺は返事するしかない。ご尤もだから。
 
「代替? そんなものないですよ、僕が欲しているのは彼のみですから」

食い下がる御堂先輩に対し、「だったら文句を言うな」ただでさえ女という身に飽き飽きしているのに、淳蔵さんはそこまで言うと人が変わったように人の好い笑顔を作って俺に言った。
 
  
「君は御堂家のために生き、そして死になさい」
 

やけに厳かな台詞だと、他人事のように思う。
 
肩を並べている御堂先輩がふざけたことを言わないで欲しいと喝破してくれる。
 
彼の人生は彼のものであり、御堂家のものじゃない。
豊福は道具じゃないのだと御堂先輩が主張するものの、「いいね?」淳蔵さんは俺に返事を求める。

それは返事というより、絶対服従を求めているようにも思えた。否定は決して許されない。
 

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