前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
アスファルトを蹴って片側二車線の道路に飛び出すと、血相を変えた鈴理先輩が大慌てで腕を掴んで引き戻してくる。
車道の信号が青だったらしい。その色の識別すらできないほど、俺は動揺していた。
「空!」轢かれたいのかと怒鳴ってくる元カノに、「母さんがっ」振り返った俺は顔を歪める。視界すら歪んでいる気がした。
「母さんが倒れたんっすよ。っ、放して下さい。病院に、**病院に行かないと!」
「お母様が……っ、あ、待て空! 少し落ち着け! あたし達の迎えの車がそこに停まっているから!」
あんたが目指す病院は此処からじゃ距離がある!
声音を張って冷静になれと命令してくるあたし様は、俺の体を大雅先輩に放って正門へ。
「落ち着けって」体を受け止めてくれた俺様からぶっきら棒な気遣いを掛けられた。
安心できない。
車を出してくれる心遣いすら、今の俺には感じる余裕がなかった。
母さんが倒れた、そのショックが俺を奈落の底に貶めた。
引き摺られるように車に乗り込むと、久しく会う田中さんに病院へ送ってもらう。
走行中、俺の思考はすっかりネガティブに染まってしまい、最悪のことを想定してはどうにか大丈夫と振り払うの繰り返しだった。また親を亡くしてしまうのかという念が膨張し、かくかくと体が自然と震える。
伊達に両親至上主義を名乗っていない。家族に何か遭った、それを耳にするだけで気がおかしくなりそうだった。
(母さん、母さん、かあさん―――…)
組んだ手を握り締めて神様に祈る。
お願いです、どうか育ての親まで俺から奪わないで下さい。
こんなカタチで別れたくないんです。
まだ何も恩返しをしていないのだから。
「大雅、玲に連絡しよう。今の空にはあいつが必要だ」
「鈴理……、分かった。今は婚約のことを口にしている場合じゃねえしな」
二人の会話も、俺には遠い。