前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「特に玲達の婚約は不可解だと思わないか?
仮に俺達が婚約しなくても、豊福は借金を負う未来になっていたと思うんだ。
で、肩代わりに玲のじっちゃんが出てきて……、お前等はどっちにしろ別れる道を選ぶしかない。
んでもって俺達は婚約しようみたいな未来になっていたかもだぜ。
なによりなんで玲のじっちゃんは、豊福家の借金を好意的に肩代わりしたんだ? 単なる孫の知り合いだぜ? そりゃ玲が好意を寄せていたってのはあるけど」
五百万の借金を肩代わり、だなんて……あしながおじさんかよ。
大雅の意見に、「あしながおじさんは人質なんて取らないと思うがな」と鈴理は眉根を寄せた。
「一番に考えられるのは、玲の言っていたとおり世継問題だろうな。玲の祖父は有名な男尊女卑の思考を持つ、実力派だ。
玲本人から自分に財閥を任す気はないようだと聞いているし、孫を早く生ませて財閥の基盤を作ろうとしているんじゃないだろうか?
あの人は食えないと財閥界じゃ有名だからな」
「ああ。玲のじっちゃんは怖いよな。俺の親父もあの人には常に警戒心を抱いているし」
「空も逆らえない立場なんだろうな。
あいつ自身の口から“御堂家のために生きて死ぬ”なんて聞かされるとは夢にも思わなかった。……あいつなら本当にしそうで怖いな」
「わっかんねぇぞ。表向きかもしれねぇし」
「阿呆か。空のバックにはご両親がいるんだぞ。
自分が逆らうことでご両親を盾にされたらどうする?
見ただろ。
空のお母さまが倒れた時のあいつを。
尋常ではない取り乱し方をしていたではないか。
あいつはな、自他共に認める両親至上主義なんだ。
育ててくれたという強い念からご両親のためなら、どんなことでも努力する。そう腹に決めてしまう男だ」
「どんだけのファザマザコンだよ」毒づく大雅に、「それが自分にできる償いだと思っているんだ」鈴理の声が湿った。
「あいつは目の前でご両親を喪っている。
未だに自分が殺してしまったのだと思い込んで傷心を抱えているんだ。その記憶が戻ったのは極最近のこと。
……癒えるには相当の時間を要するだろう。
あいつの両親至上主義は時々無性に怖くなる。自分すら軽んじそうで。玲が傍にいるから大丈夫とは思うが」
「玲に任せておけば大丈夫だろ。あいつはそういう役回りに関しちゃ天下一だ」
確かに。好敵手に意中を預けるのは癪だが安心はできる。
長い付き合いだ。何かあれば彼女が支えになってくれるだろう。
本当は自分が傍にいてやりたいのだが、今の自分はお呼びではないだろう。
だから玲に任せる。
彼女なら彼を託すことができる。
とはいえ嫉妬しないかと言ったらそれは否であるが。