前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「と、よふく?」
アイスノンを落とし相手の腕を握り締める。
「置いて行かないでください」
もう残されるのは御免だと本音を漏らした。
小刻みに震える体が恐怖した度合いを示す。
俺は怪我をしたっていい。
男なんだ。少しくらいの怪我ならヤンチャで済む。
なによりこの人が無事なら、俺は怪我したっていいんだ。
でも先輩は生物学上女性。
普段は男ポジションでいい。男として振舞っていい。俺は貴方が望むなら、男ポジションを譲る。
だけど、何か遭ったら一時的でいい。
俺に男ポジションを譲って欲しい。
女性の貴方を軽蔑しているわけじゃない。
ただ女性の体に傷は作っちゃなんない。
男の俺にできないことするのだから。
体は、大事にして欲して欲しい。
「お願いですから、置いて行かないで」
上擦る声を抑えていると、「自惚れてしまうだろ?」きつく抱擁を返された。
目を白黒させる。
自惚れ? 場違いな台詞が返ってくると思わなかった。
ぎこちなく相手を見やると、表情を見られたくないのか抱擁が強くなった。
「君にそこまで恐怖させてしまった。その気持ちは僕に向いているのだと自惚れてもいいのかい? 豊福」
「先輩」
「正直。性悪な僕は今、とても嬉しいんだ。君の心配が。君の恐怖心でさえ嬉しく思うのは、僕の性格の悪さがにじみ出ているな。
けれど、ストレートに心配されて、体を大事にしろと言われて、無茶するなとお願いされて、喜ばない僕じゃないんだ」
彼女に言われて気付く。
俺の中で御堂先輩がどれほど大きくなっているのか、を。
そうか、俺はこの人のことをこんなにも。
「恐怖してしまうほど大切、なんです。貴方のこと」
スツールから打撲している足を下ろし、彼女の背に腕を回す。
何度思い出しても俺の感想は一言に尽きる。「怖かった」と。
その恐怖心は婚約者を守れない、だけではなく、彼女を失うかもしれない一種のフラッシュバックに襲われたから。
知り合いが同じ目に遭ってもきっと俺は多大な恐怖心を煽られるだろう。
だけど身を震わせるほどの恐怖を感じるのは、特別俺が感情を置いている特定の人達だけだ。
両親を筆頭に、俺を常に好いてくれた鈴理先輩。いつも親身になって相談に乗ってくれるフライト兄弟。
特に俺と仲良くしてくれる人達。それに、絶望の淵に追いやられそうだった俺に手を差し伸べてくれた御堂先輩。
好きうんぬんかんぬんじゃない。
俺にとって彼女は既に必要な人なのだと確立している。