前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―


放課後。

 
完全に上の空になっていた鈴理は、出来事を思い出しては小さな溜息をついていた。
 
昇降口で後輩を見かけたのだが、彼は素知らぬふりをして自分達の脇をすり抜ける始末。

それが余計鈴理の頭を悩ませた。

そのため、呼吸をしては一溜息。
酸素を吸っては、はい、溜息。
思い出してはふかーい溜息。

迎えの車に乗車しても三分に一回は溜息をついて、今日の昼の出来事を思い出していた。
 

「はぁあああ」大袈裟に溜息をつくと、「いい加減にしろ!」前方からツッコミが飛んでくる。


視線を前に流せば、大雅が財務諸表の書類を持ったままこめかみに青筋を立てていた。

「何を怒っている?」短気な奴だと眉根を寄せる鈴理に、「怒りたくもなるわ!」どんだけ溜息をついてるんだよ! 俺の作業の邪魔をしてぇのか! 大雅が喝破してきた。
 

「おまっ、俺があと少しで終わるってのに。なんだ? もう親を説得するイメトレでもして惨敗した光景を思い浮かべているのか? マージ苛々すんだけど」

「はぁああ。悩んでいる最中に、大雅がワケ分からんことを言い出した。もはや溜息しか出ん」


「てめッ。俺のせいだっつーのか? 今の」
 

なんだ、悩みでもあんのか?

めんどくさそうに質問してくる大雅に視線を留める。

ぶっきら棒に苛々するんだと繰り返す大雅だが、彼なりの優しさが含まれていることを鈴理は知っていた。

悩むくらいなら吐いちまえ、といったところだろう。
 

リバースのごとく吐いてしまいたいのは山々だが、こればかりは少し戸惑ってしまう。

安易に婚約者に言っても良いのだろうか?


彼の立場を考慮するのならば……、だが、ある意味、これは大雅自身にも関わりがあることである。

婚約者である大雅自身にも。彼は玲に言うなと頼んできた。


しかし何故か、周囲に言うなとは口止めしなかった。

周囲にはばれても良いと思っているのだろうか?

自分が他者に言わないと確信でも持っているのだろうか?


また一つ溜息を零す。

「うざってぇぜ」

相手に言葉をぶつけられてしまった。
しょうがないではないか、本当に溜息しか出ないのだから。
 

「大雅。あんたさ、もしも」

「あ?」


やっと言う気になったか? 婚約者は足を組みなおして書類を捲った。



「もしも百合子にセックスを求められたらどうする?」



紙の散らばる音が車内中に響いた。

硬直と赤面の両方を態度で示している自称俺様は、「は?」間の抜けた声を出して鈴理を凝視してくる。

声に比例して顔も大層間の抜けた顔である。

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