前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
食事後、御堂先輩が先に風呂に入っている間、俺は縁側で夜風と戯れる。
夜空を仰げば昇る月がぽっかり欠けていた。
嗚呼、今日は三日月なんだな、と柄にもなく感傷に浸る。
庭園を眺めながら、御堂先輩があがってくるまで暇を弄ばせていると「お風邪を引きますよ」と声を掛けられた。
視線を持ち上げれば、数メートル先にさと子ちゃんが立っている。
肌が青白く見えるのは月光のせいだろう。
物言いたげな面持ちを作っているさと子ちゃんに微笑を返し、「好きなんだ。此処」俺は返事する。
縁側から庭園を一望する。
この時間が大好きだった。
風邪を引いても、きっと俺はこの行為をやめないと思う。
「お風邪を引いても知りませんよ」
言葉に茨を巻いて俺に歩み寄ってくるさと子ちゃんが、こっちを見下ろしてくる。
「どうしたの?」
俺に用があるんじゃない?
先手を打って相手の出方を窺うことにした。
気付かない振りをしてもいいけど、眼がずっと何かを主張しているんだ。
なんか超気になるじゃん?
距離を置いていることに関してはなにも聞かないけど、今、彼女がその眼で訴えている心情については聞いても良い気がした。
口を一文字に結んでいたさと子ちゃんは小さな吐息をつき、「空さまはお嬢様のこと」ちゃんと好きですか? と突拍子も無いことを聞いてくる。
「勿論だよ」即答しても信用されていないみたい。
飛ばしてくる視線の眼光が鋭くばかりだ。
やけに硬い表情を作るさと子ちゃんを見つめ返し、「どうしてそんなことを聞くの?」俺は静かに質問した。
夜風が木々の葉を揺らし、小さな演奏会を始める。
心地良い風とその温度に身を委ねながら相手の返事を待っていると、
「気になっただけです」
素っ気無く返された。
さと子ちゃんらしからぬ態度だ。
怒っているようにも取れる。
「そう?」
ならいいんだけど、俺は視線を戻した。
満目一杯に広がるのは静寂を保ちつつも厳かな空気を取り持つ庭園。
「静かだね。こういう静かな空気、俺は嫌いじゃないや。なんか落ち着く」
「はい、そうですね」
ゼンッゼン同調を示してくれない声音だ。ほんと何を怒ってらっしゃるのだろう?