前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「豊福。何をしていたんだ? 早く行くぞ。遅刻する」


「ごめんなさいっす!」

 
 
俺が車に向かうと、すっかりまちくたびれた御堂先輩の姿がそこにはあった。

どうせセーラー服に着替えなければいけないというのに、朝からわざわざ学ランを着ている御堂先輩の男装への執念には恐れ入る。

車内で待ちぼうけを食らい、若干不機嫌になっている御堂先輩に詫びて、俺は急いで乗車。彼女と共に学校に向かった。


とはいえ、俺と彼女は他校生。


先に俺を学校まで送り、次に彼女を送るというのが最近の俺の朝の光景だ。


そのため余計に待たせてしまったことを詫びなければいけない。
 

俺はごめんなさいの意味を込めて片手を出す。

腕を組んで脹れている御堂先輩は、着替える時間があるんだからな、と文句垂れてきた。

だったら最初からセーラー服で登校し、下校の際に男装をすれば良いのでは? なーんて思う俺だけど、非があるのは俺だからお口にチャック。

素直に詫びる選択肢を取った。

あんまり言うとまーた鏡プレイだの素直になるレッスンだの言われちまう。
 

むっすりしている御堂先輩は俺を流し目にすると、「やけに荷物が多いな」通学鞄のふくらみに目を付けてきた。


「もち勉強っすよ」


これでも奨学生で御堂家の婚約者だ。

昨日休んだ分、今日はちゃーんと頑張らないと。


意気揚々に告げれば、「大人の勉強も疎かにできないぞ」としっかり釘を刺してくる。


うぐっ、そ、その単語は今の俺には胃痛の原因でしかない。

アイタタタッ、今日食べた朝食がリバースしそう。


こっそり腹部を擦る俺に気付いているのかいないのか、ちょっぴし彼女が訝しげな眼を飛ばしてきた。
 


「豊福。今日の君はテンションが高くないか?」



ギックーッ!

アイタッタタッ、また胃が、胃がぁあああああ!


何でこの人はこうも聡いの? 王子怖いよ! 空気読みすぎる子も考えもんだって!

テンションが高い?

おう、俺はテンションが超高いよ! あげないとやってらんねー!


「ちょっと良い夢見ちゃいまして」


それでテンションが高いのかもしれません、俺は頬を掻いた。

当然どんな夢だと聞かれるから、即答で両親の夢だと答えた。本当は夢なんて見ていない。

従って嘘百八もいいところだけど、俺がテンションがあがりそうな一番の話題って言ったらこれだ。

なんたって俺は両親至上主義だから!
 
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