前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
血の気を引かせて佇んでいると、手に持っていたスマホが声を上げた。
メールのようだ。
確認すると親衛隊隊長が、『バスで何処かに行ったみたいですよ』と情報を寄こしてくれる。
ということはもう学院にはいない。
確信がついた。
「蘭子。さと子。車に戻る」
バス停を洗うぞ、踵返して二人に命じる。
一分一秒彼の行方を追いたい。
その気持ちが玲を急かすのだ。
しかし鈴理に待つよう声を掛けられてしまう。
「今のあんたは冷静じゃない」
少し落ち着くべきだと促してくるのだが、それさえ疎ましく思えた。
前に回って通せん坊してくる好敵手に邪魔をするなと声音を張った。
「豊福はジジイに逆らった。それがどういうことなのか、財閥界にいる君なら分かる筈だ! 御堂淳蔵は身内でさえ恐れる権力者。
あいつは家庭すら滅ぼしかねないぞ、あのジジイなら……、豊福は御堂家のために生き、そして死ぬよう強制されていた。
文字通りそうされてしまう可能性がある」
「気持ちは分かる。あたしだって心配でしょうがないさ。
だが玲、このまま闇雲に捜しても状況は好くならない。分かるだろ? あたし達も協力するから」
「君達には関係のないことだ。豊福は僕の婚約者っ、あいつは……、あいつは自分の未来を捨てて僕を守った」
財閥対峙は追々僕の未来に翳りを落とす。
だからあいつは僕を取った。
御堂家のためだって知っていてもジジイに逆らった。
逆らわなければ、自分の安定した未来を手にしていただろうに。
馬鹿で優しすぎるから、あいつは誰にも相談せず、いや相談できず、結論を出してしまった。
僕さえ彼の心情に気付いていれば、こんなことにはならなかった。
ただでさえ金で作られた関係、あいつとの関係は不安定でどうしようもないというのに。
……豊福は以前、僕を守ろうと走ったことがあった。
あいつの気持ちもこんな感じだったんだろうな。
恐怖している。
居ても立ってもいられない。
僕はあいつを失いたくはない。
豊福の代替なんて要らない。
僕が隣に居て欲しいのは世界中でたった一人だ。