前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―


見事にみーんな騙されてくれたんだけどさ。

一笑。パソコンチェアに凭れて相手を見やる。


意味深長な態度に彼女は何かを感じたのだろう。

目が説明を求めてくる。


やや間を置き、「これで最危険人物は僕に定められた」御堂淳蔵はこれから、僕という人間を探り、調べ上げ、徹底的に潰してくるだろうね。


ウィンクして天井を仰ぐ。


一変して驚愕を露にする真衣ちゃんに言葉を重ねる。
 


「仮に今のまま共食いが成功したら、企業データを解析していた大雅と鈴理ちゃんが危険視される」



危ない芽は早く摘みたい主義のご老人なんだ。

向こうに歯向かうような行動を取ってしまえば遅かれ早かれ、二人は向こうの手によって潰される。

なら二人に指示している人間がいると教えてやればいい。

策士の老人はこう思う筈さ。
最優先で指示する人間を潰してしまわなければ、と。
 

「僕のように異端な考えを持つ財閥の人間は、御堂淳蔵達にとって不都合だろうしね。財閥を取りまとめているトップ同士が手を組んで潰してくるかもしれない。
まあ、それだけの実力が僕にあればの話だけど」


「それではっ、それでは貴方が危険に曝されることになります! たとえ、それが弟妹達のためだとしてもっ、今度は貴方が」
 


「嫌なんだ」



可愛い二人が傷付いて泣く姿を見るのは。


他人事のように答える僕に、「馬鹿なんですね」カクテルの王様になりたい方が自分を犠牲にするようなことをするなんて。

真衣ちゃんが眉を下げる。

眉の上下運動が激しい子だな、僕は微苦笑を零した。
 

「向こうに動きを知られているこれから、どうするのですか?」


「二人には玲ちゃんに会ってもらうよう奔走してもらっておくよ。どちらにしろ玲ちゃんの説得は二人に任せないと。淳蔵が孫に何か命じたのは容易に想像がつく。
こっちはこっちで奔走するさ。二人の解析したデータを使い、支配ばかり目をいく爺様とはべつのやり方で、ね」


「なら私も」


「真衣ちゃんはお守りがあるだろ? 可愛い妹ちゃんのさ。あの子もまだ財閥のことをよく知らないんだ。教えてあげてね」
 

物言いたげな顔を作る真衣ちゃんは、その妹達の様子を見てくると扉に向かう。

今ならきっと大雅の部屋にいると思うよ。

彼女の背に言葉を掛ける。

扉を開けた真衣ちゃんが動きを止めた。


半開きの扉をそのままに、「一つだけ」ヨシミとして助言します。

首を捻って力なく微笑んできた。



「貴方を想う人間がいることを忘れないで下さいね。その方を泣かせたら、元も子もありませんので」

 
「え? あ……、百合子さん」
 


扉の向こうに佇んでいたのは僕の許婚。

いつ訪問したのだろう? 前触れもなしに訪問するなんて滅多にする子じゃないのに。
 

「遠慮なく入って下さい」


私は失礼しますので。

彼女の背を押して扉を閉める真衣ちゃん。痛いほどの沈黙が部屋を満たした。


浮かない様子からして途切れ途切れに会話を聞いてしまったのだろう。


今にも雨が降りそうな、悲しそうな表情を作っている。

声を掛けると、百合子さんは弾かれたように駆け出して名前を呼んでくる。


立ち上がって彼女の体を受け止めた。


縋ってくる彼女の頭を撫で、名前を呼び返してやる。

消えないで、とか弱い声で囁かれたのは直後のこと。



―――…不安にさせているのだと悟った。


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