前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「まあ、気持ちは受け取っておくから」
こほんと咳払いするエビくんの性質を受け男は垣間見た。
キャツはどうやらツンデレのようだ!
そうか、やっぱりエビくんはツンデレキャラだったのか。
その眼鏡が物語っていたんだよな、ツーンな空気。
でも優しい時は優しいからエビくんはツンデレだ。
内心で自己完結していると、「話を戻そう」エビくんが手を叩いた。
何の話をしていたっけ?
……ああ、そうそう、アジ&イチゴペアは不安だって話をしていたんだっけ。
うーん、よく考えてみると不安だよな。あの二人。
特にイチゴくんの暴走は博紀さんすらお手上げ状態だ。
「ちょっと連絡を取ってみようか。」
エビくんがトランシーバーを取り出す。
目をキッラキラさせてそれを見つめる俺に呆れるかと思いきや、「カッコイイよね。これ」ぼそっとエビくんが呟いた。
この時点でエビくんも同志である。
やっぱりトランシーバーは携帯にはないカッコ良さを兼ね備えている。
あのエビくんですらカッコイイと言うのだから、相当カッコイイよこれ!
後で触らせてもらおう。
物欲しそうな目で機器を見つめていると、トランシーバーから汚いノイズが聞こえた。
このノイズがまたイカすんだよな。
けど場所が場所なだけにやたらノイズが煩い。
俺達のいる場所が地下層だからだろう。
余計なことを思いつつ耳を澄ます。
エビくんの応答にすぐさまアジくんが答えた。
大丈夫か、状況を聞くと『最悪の最高!』イチゴがまたやらかしやがった! アジくんが大笑いする。
『さっきさ。あの兄ちゃんの部下の人に見つかったんだ、俺達! 捕まりそうになったんだけどイチゴがっ、くくっ、大声で助けを求めやがって。
≪俺達の体は売れません。写真も勘弁です!≫だって。
もう大爆笑だぜ! ホテルマンが駆けつけててんやわんやになった!』
『あ、俺にも触らせろってアジ。
はいはーい、男に襲われそうになったイチゴどぇす。そっちは元気? 男に襲われていない? 困った時は大声を出して助けを求めるべきだよな』
『内容にもよるだろ! あーっ、おかしい!』
『その騒動から逃げ出した俺達、最強! って、あ、やべ! またあいつ等だ!』
………。
ぎこちなくエビくんと視線を合わせた。
「ここ一流ホテルだよ」
財閥がこよなく愛するホテルの一つなのに、俺は途方に暮れた気持ちを抱く。
「しくった」
やっぱり不味い組み合わせだったか、とエビくんが額に手を当てた。
こりゃ挙式を中止できても、別問題が浮上しそうだ。
ぽりぽりと頬を掻いてトランシーバーの笑声を聞いていると視界の端、窓の向こうに動きが見えた。
思わず視線をそっちに向ける。車窓に寄って少しだけ窓ガラスを下げた。
色づいた世界の向こうに騒がしい声。
安部さん達が声に反応し、動いている。
もしかして淳蔵さんが俺の逃走を知ってしまったのだろうか?
居場所を特定してしまったのだろうか?
それにしては早い気もするけれど。
緊張が胸を占めた。
「せやからっ、オレ達はカップルなんや! だあれもいないところでイチャコラしようとしただけなんやで! オレはっ、ここで彼女に攻められる予定なんや!」
「ち、ち、違います! それは全力で否定させて頂きます! あ、でも私達、不審者じゃないんですっ! お友達とここで待ち合わせをですね」
……おやおやおや、聞いたことのある男女の声だぞ。
一変して遠目を作る。
もしかしてもしかしなくともあの声のペアって。
ここからじゃ見えない。
下車して確認してみようかな。